熱帯魚の水槽について
情けないことに、私にはそれしかできないのですから、せめてI君が明るい気持ちで、研究室でがんばれる動機付けを与えられるように努めました。
奥さんなどは、私が撮らないでよかった、Iさんに任せてよかった、と常々言っています。
なるほど彼の努力を考えますと、私ではなく、忍耐強いI君に任せたことが、世界初の水の氷結結晶写真(以下、結晶写真とする)の撮影成功につながったと思います。
二ヵ月の奮闘の後に、ようやく一枚の写真が撮れました。
興奮のあまり実験室を飛び出し、私のもとに写真を持ってきたI君の表情は、いまでも忘れることはできません。
いま、改めて感じるのですが、私も彼も、純粋な気持ちで水の結晶写真撮影に挑んでいました。
当初は半信半疑だったI君も、だんだん私の情熱に影響を受けてきたのか、確固たる信念を持つようになりました。
だからこそ、水はそのもっとも美しい姿を見せてくれたのでしょう。
もしもお金儲けを目的に写真を撮っていたのなら、そのいやしい思いに水は反応し、けっして結晶を作ってはくれなかったと思います。
実験を積み重ね、写真を撮りつづけたことで、そのノウハウも確立してきました。
その後、実験用の大型冷蔵庫を一二台設置。
常にマイナス五度の温度を保てるようにしています。
具体的にどのように写真を撮っているのでしょう。
現在、私たちが行っている方法をご紹介しましょう。
まず最初に、水を五O個のシャーレ(ひとつが直径五センチメートルほど)に入れます。
これをマイナス二五度以下の冷凍庫で凍らせます。
三時間後に取り出しますと、表面張力によって真ん中が丸く盛り上がった氷の粒ができあがっています。
直径約一センチメートルほどの小さな小さな粒です。
この突起ひとつずつに光を当て、顕微鏡でのぞくのです。
うまくいきますと、結晶ができ始めます。
数十秒ほどの時間をかけてその結晶は美しく花開くのです。
この五O個のシャーレの水は、同じ水を、同じ条件下で凍らせたものです。
でも、その五O個すべてに結晶ができるとはかぎりません。
美しい結晶ができるシャーレがあるのに、一方ではまったく結晶を作らないシャーレがあることもしばしばです。
しかし、統計をとりますと、明らかに似た美しい結晶がいくつもできるケース、くずれた結晶が多いケース、あるいはまったく結晶ができないケースなどに分かれます。
ですからこの結晶写真が、それぞれの水が持つ性質を裏打ちしているとは、まちがいないのです。
水の結晶写真の撮影に成功したことで、私の人生は大きく変わりました。
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